これは俺が高校生の頃の話。
中学から部活でやっていた軟式テニスで成績を出したかった俺は、とある強豪校に入学した。
「リキヤ先輩、今日からよろしくお願いします」
入学当初からさっそく部活に参加し、先輩とあいさつを交わす。
リキヤ先輩は俺の二つ上の先輩。彼も俺と同じく軟式テニス部に所属している。
俺の父と彼の父親は同じ会社に通っており、俺の父が先輩の部下にあたる。
そういった関係性もあり、すでに顔見知りの仲であった。
「おお、タカシ。よく来たな。今日からよろしく頼む」
先輩はそう言うとにこやかな笑顔で俺に握手を求めた。
俺はそれに応じつつも、リキヤ先輩に向けられる周囲の部員からの視線に冷ややかなものを覚えた。
入部初日から、新入部員、2、3年生関係なく猛練習が始まった。
そのきっかけは俺と同じく今年からこの学校に入り、軟式テニス部の顧問になった先生の言葉だった。
「インターハイ予選に参加できるのは8ペアだ。その8ペアは全ペアによる校内予選で決めることにする」
これまでは最後の試合となる可能性が高い三年生が優遇されていたらしいが、新しい顧問の先生は実力主義。
いくら上級生だからといっても実力の見合わない生徒を出場させる気はないらしい。
とはいえ、俺はそれも部を全体的に強くするための施策だととらえ、たとえライバルになる相手だろうとも助言やサポートを行いつつ練習に取り組んだ。
それは3年生のリキヤ先輩とて例外ではなかった。
「リキヤ先輩、スイングに力みが入っているように見えます」
「もっと身体全体を使って打った方が良いかもしれません」
「なるべくコートを広く見て打ち分けた方がいいですよ」
俺は良かれと思ってそんなふうに助言を繰り返した。
そのたびに周囲からちょっとした笑い声が聞こえてきたり、リキヤ先輩を憐れむような視線を感じたりしたのは、今思えば気のせいではなかったのかもしれない。
「あ、ああ。分かった。ちょっと意識してみるよ」
先輩は俺がアドバイスをするたびに、顔を引きつらせながらもそう言った。
そんな日々を送りつつ部のみんなと打ち解けてきたころ、事件は起こった。
「タカシ、部活が終わった後ちょっといいか?」
俺はリキヤ先輩に呼び出され、練習が終わった後に人気のないところに呼び出された。
遅くまで練習があった後なので、もうすっかり日も暮れて暗くなっている。
「先輩、何か御用ですか?」
俺が呼び出されたところへと向かうと、そこにはリキヤ先輩と、リキヤ先輩といつも一緒の先輩たち数名が待ち構えていた。
テニス部であるにもかかわらず、その手にはラケットではなくバットが握られている。
「え、どうして皆さんバットなんか持っているんですか?」
俺が疑問をそのまま口にすると間もなく、俺は背後から背中を殴られた。
勢いそのままに前方に倒れ込む。
続いて背中に誰かがのしかかったのか、一人分の重量を感じた。
「リキヤ先輩!? ちょっと、なにを――」
「おまえさあ、ちょっと上手いからって調子に乗り過ぎじゃねえか?」
リキヤ先輩はいつもと違う、低い声で俺を脅すように語った。
「いつもいつも、みんなの前で俺をバカにしやがって……」
先輩のその一言で、俺は察した。
恐らく練習中のアドバイスのことだろう。俺としては良かれと思ってやっていたことだったのだが、先輩としてはプライドを傷つけられたように感じてしまったらしい。
「リキヤ先輩、すみません。俺、バカにしたつもりはなくって」
「うるせえ! どうせ中学の時に全国大会に行ったからって図に乗っているんだろう?」
先輩は聞く耳も持たず怒鳴りつけてくる。
「いいか、高校ではテニスが上手いだけじゃ勝てないんだぜ? たとえばこういうことだってあるんだ――」
リキヤ先輩は、手にしていたバットを振りかざすと、俺の右腕めがけて振り下ろした。
それも、一度と言わず何度も何度も。
「ああっ、やめてください! A先輩、B先輩——……」
必死に訴えるも、先輩たちの暴行は止まる気配がない。
俺は右腕を中心にケガを負い、ズタボロになった。
「今後はせいぜい身分をわきまえるこったな」
「一生懸命頑張ってたのに、これじゃ校内予選すら出れそうにないねw」
「じゃあな新入生」
先輩たちはしばらく俺を殴ると、気が済んだとばかりに立ち去って行った。
「おい、タカシ。今日のことは絶対に先生にも親にも言うなよ? チクったら俺の父ちゃんがお前の父ちゃんを辞めさせるからな」
リキヤ先輩は口封じとしてそんな脅しをかけてから、歩き去って行った。
俺は倒れたままで右腕の状態を確かめる。
あまりにもひどく殴りつけられたからか、感覚が鈍くなり痛みすらあまり感じない。
まともに動かせず、これでは校内戦までの回復は見込めそうにない。
(右腕は使い物にならないな)
俺は今後の身の振り方を考えつつ立ち上がり、帰路についた。
帰宅すると、
「お帰り。お前、その腕はどうしたんだ?」
「ただいま。ちょっと転んだだけさ」
俺を見た父は驚いていたが、心配をかける必要性を感じなかったので適当にごまかすことにした。
翌日、俺はなんてことも無かったかのように練習に参加した。
右腕の処置自体はしてあるが、すぐにまともに動かせるようになるわけもない。
それでも校内予選出場を諦めたくなくて、左腕でラケットを振る。
「タカシ、右腕どうしたんだ?」
俺の様子にチームメイトたちからは心配の声をかけられたが、公の場のため本当のことは言わずに、
「ちょっと転んじゃって」
と伝えるようにしていた。
俺が左腕で打つボールは、右腕で打つ時と異なり、ひょろひょろと力のない放物線を描いていた。
「見ろよあいつ」
「頑張ってるね~w」
「とっとと諦めればいいものを」
練習中、これまでと違う俺の球筋を見て、加害者である先輩たちはゲラゲラと笑っていた。
ダブルスが主体の軟式テニスにおいて、力のない高い弾道のボールはネット前に立っているプレーヤーにスマッシュを打たれる危険性が高い。
いわゆるチャンスボールになる確率が高いのだ。
「おーい、いつまでボール上げしてるんだ? もっとしっかりとしたボールを打てよ」
リキヤ先輩はこれまでに俺に言われてきたうっぷんを晴らすかのように言う。
「部活を休んで右腕の治療に専念したらどうかな? どうせ校内予選で勝つのは無理だろうし。ほら、試合はテスト期間と被るから、それを考えればいい機会かもしれないぞ?」
先輩は白々しくもそんなことを言ってきた。対して俺は、
「いえ。チャンスがある限り努力するのが大事だと思っているので」
そう言ってひたすらにラケットを振るった。
そんな俺の姿を見て、先輩はさぞつまらなさそうに舌打ちをした。
そんなリキヤ先輩とは対照的に、
「タカシ、お前、本当に大丈夫なのか?」
俺のことを心配してくれるのは、校内予選にペアとして参戦することになった二年生のサトウ先輩。
後ろでラリー主体のプレーをする俺に対して、彼はネット付近で攻撃的なプレーをする前衛ポジションだ。
「大丈夫です。サトウ先輩がのびのびとプレーできるように頑張ります」
「そうか。お前がそう言うなら、俺も諦めるわけにはいかないな」
そう言って彼は俺に笑いかけた。
「だけどさ、お前が左腕で打っているボール、高い弾道ばかりだけどほとんどミスがないよな?」
彼のその言葉に、俺は感心した。やはり見ている人は見ているのだと。
「それに、こんなことを言っては失礼かもしれないが……本当に全力で打っているのか?」
通常であればここはむっとするべきところなのかもしれない。
しかし俺はにやりと笑い、先輩の口に人差し指を立て、小声で語りかけた。
「先輩は鋭いですね。そんな先輩にひとつ伝えておきたいことがあります」
「な、なんだ?」
「俺は正々堂々という言葉が好きですが、それ以上に人を驚かせるのが好きなんですよ」
俺は一瞬だけ不敵な笑みを見せると、それ以降は再び練習に意識を集中させた。
数週間後、いよいよ校内予選の日を迎える。
右腕はサーブの時にボールを上げられるくらいには回復したが、ラケットを握れるまでには至らず、左腕でのプレーを余儀なくされた。
校内予選はリーグ戦で争われ、俺・サトウ先輩ペアVSリキヤ先輩ペアの試合が始まる。
実力的にも実質、この試合で8ペア目が決まると思われていただろう。
俺にハンディがある分リキヤ先輩ペアに分があると誰もが思っていたに違いない。
しかしいざ試合が始まってみれば――
「どうしてだ、なぜこうもポイントが取れない?」
リキヤ先輩ペアは俺たちからほとんどポイントを奪うことなく、試合が進んでいく。
「おい、ゴトウ。早くポイント決めてくれないと困るんだよ!」
「いやいや。お前がタカシを崩せないから、俺も決めに行けないんだろうが!」
上手くいかないストレスからだろうか。彼らは試合中にケンカまでしだした。
「見てよあの子たち」
「親も見に来ているのにねえ」
3年生にとっては最後の試合への出場権を決める校内戦ということもあり、我が子の試合を見ようと顔を出している保護者もちらほらいた。
「まったく、リキヤの奴は何をやっているんだ?」
その中にはリキヤ先輩のお父さん、ヒトシさんの姿もある。
「あー、もう。親父が見に来てるってのに――」
「レッツプレイ」
なかなか次のプレーに移行しないリキヤ先輩ペアに、審判を務める部員から試合を進めるよう促すコールが飛ぶ。
「ちっ」
リキヤ先輩は審判を一瞥し、しぶしぶポジションに戻った。
しかしその後も俺たちの優勢は変わらなかった。
俺は練習通りにボールを打つだけ。
ひたすら走り、追いつき、打球する。
ただし練習の時と違うことがある。それは――
「はっ!? なんだよ今のボール!?」
相手の前衛の横を抜くスピードボールを打ち始めたこと。
「タカシ、調子が出てきたな」
「ええ。まあ、もともと打てるんですけどね」
俺はサトウ先輩に笑いかける。その会話が聞こえたのか、リキヤ先輩は血相を変え声を荒げた。
「お前、なんでそんなボールが打てるんだ!!」
「え? 打てないと思ったんですか? どうして??」
「だって、お前の利き腕は右腕で、左腕では力のないボールしか打てないはずだろ!?」
驚いた表情のままで言い放った先輩の表情に、俺は愉悦を覚える。
「先輩って、本当に何も知らないんですね」
「……なに?」
「そんなんだから何年もテニスをしているのに、大して強くもならないんでしょうね。他校どころか、同じ学校のチームメイトのことすらよく知ろうともしない」
「そ、そんなの知るわけねえだろ!」
「俺が中学時代に対戦相手から恐れられていた理由は……どこにボールが飛んできても、利き腕で打てるからですよ」
「そんなやついるわけ……」
「たしかに先輩の言うとおり、非利き腕側に跳んできたボールを回り込んで打つのは限界があります。でも、俺には回り込む必要なんてないんですよ」
「はっ……まさか」
「やっとわかってもらえたようですね。俺、実は両利きなんです」
俺はにんまりと笑いながら、先輩に左の手のひらを見せつけた。
あの日……右腕を使えなくされた日、俺が立てた計画はこうだ。
『練習の時には慣れない左腕で打っているかのように見せかけ、本番では実力を見せつける』
そうすることでリキヤ先輩を完膚なきまでに叩きのめしてやろう、と。
そういう算段を立てたのだ。
「おまえ、実力を隠していただなんて……卑怯だぞ!!」
「ぷっ、どの口が……」
先輩の言葉に思わず笑いが漏れてしまいそうだった。
「先輩。このままだとつまらないと思うので、もっと面白いことをしましょう」
「なにい?」
「俺、今からスピードボールは打たないので」
「はああ!? 舐めやがって!!」
俺の発言に怒り狂った先輩は、ずかずかとポジションに戻っていく。
「両ペアとも、そろそろいいですか? はやくプレーを再開してくださいね」
しびれを切らした審判があきれた様子で俺たちに言った。
試合は再開され、なおもラリー中心の展開が続く。
俺は言葉通り、弾道の高いボールしか打たない。
それでも主導権を譲ることは無かった。
「リキヤ! 先にミスってんじゃねえよ!」
「ああ!? ゴトウが早く決めねえからだろうが!」
先輩たちのペアは焦りや苛立ちからミスが目立ち始め、互いをフォローし合うこともなくどんどん自滅していった。
そして最後は――
「アウト! ゲームセット」
リキヤ先輩のボールがネットに引っ掛かり、俺たちの勝利で幕を閉じた。
「ああああああああ!! 嘘だ、嘘だ……!!」
当初予想になかった敗北に、リキヤ先輩は狂ったように泣き喚いた。
「タカシに勝てなかったら、俺は他のペアには勝てない……つまり、最後の試合には出れない……」
最後の試合に出場できないとなれば、その反応にも同情はする。
しかし、それは努力や工夫を怠らずに継続してきた人物に限るというもの。
「残念でしたね、リキヤ先輩」
「……んだよお前」
リキヤ先輩は涙目で俺をにらみつけてきた。
「両利きだってなぜ言わなかったんだ! 練習の時は全力じゃなかったって言うのかよ!? 騙すような真似をしやがって……卑怯者!!」
「自分のことは棚に上げて、とことん自分勝手な人ですねえ先輩。仮に俺が両利きだって最初から言ってたら、どうなってたんですか?」
「そ、それはだな……」
リキヤ先輩が口ごもるのも当然だ。両利きだと知っていたら右腕だけではなく左腕も使い物にならないようにしていた、とはこの場では言えないだろう。
「俺はリキヤ先輩がどういう人間か、事前にリサーチしていましたよ? いろんな卑怯な手段で大会への出場権を獲得したりとか、大して練習に打ち込むわけでもないのに強くなった気でいるだとか」
そういった事前調査があったからこそ、いろんな対策をしていたのだ。
「テニスって人が出るんですよ。それなりの人間ならそれなりのテニスしかできません」
「くそが、説教垂れんなよ!!」
先輩は悔しそうにしながら、本性を露わにして怒鳴りつけてきた。
そんな試合後のごたごたを見つめていた顧問の先生が、
「そろそろいいか。次の試合を入れるぞ」
そう注意されて俺たちはコートから出た。
「畜生、なんなんだよ……」
リキヤ先輩は頭を抱えながら次の試合のためにコート上に残った。
それからしばらくして校内戦の全日程が終了。
顧問の先生から、インターハイ予選へ出場するペアの発表がなされる。
「5ペア目、ヤマダタカシ・サトウヒカルペア」
俺とサトウ先輩は無事に選出されることができた。リキヤ先輩以外の相手にも善戦したため、思っていたよりも良い順位で校内予選を突破できた。
対して、リキヤ先輩の名前が呼ばれることは無かった。
「以上、8ペアがインターハイ予選へ参加することになる。質問があるやつはいないか?」
顧問の先生の言葉にリキヤ先輩が手を挙げた。
「先生、僕は異論があります」
「異論?」
「タカシは今まで実力を隠していました。それは、練習中に本気でやっていないということです。そんなやつが試合に出るだなんて、俺は許せません」
リキヤ先輩は驚くほど堂々と、そんな異論を述べた。
「正々堂々、実力を出してプレーできるやつが試合に出るべきです」
「……」
彼の言葉に先生を含む、一同が黙り込んだ。
反論ができないというよりも呆れて何も言えないといった雰囲気である。
「タカシ、お前はどう思う?」
顧問の先生は俺に話を振ってきた。
この場の一同が言えないみたいなので、俺は彼らの期待に応えるべく口を開く。
「リキヤ先輩、今正々堂々とおっしゃいましたが……それを言うならこれはどう説明するんですか?」
俺は用意していたスマホをポケットから取り出し、画面上の再生ボタンをタップした。すると、
『リキヤ先輩、すみません。俺、バカにしたつもりはなくって』
あの日、右腕を壊された日の俺の声が流れ始めた。
『うるせえ! どうせ中学の時に全国大会に行ったからって図に乗っているんだろう?』
続いて聞こえてきたのはリキヤ先輩の荒々しい声。
その声を聞いたリキヤ先輩の表情がみるみるうちに青ざめていく。
『いいか、高校ではテニスが上手いだけじゃ勝てないんだぜ? たとえばこういうことだってあるんだ――』
その後、バキッ、ドゴッ、と何かを打ち付けるような音が聞こえてくる。
先輩たちがバットで俺を殴りつけている時の音だ。
『ああっ、やめてください! A先輩、B先輩——……』
俺があの時に名前を出した先輩たちの表情も、苦しげなものになっていく。
ちなみにこれは、その場にいた人物を明らかにするべく、わざと名前を口にするという俺の企てだった。
こうすることで状況証拠として参考にしやすいものとなる。
「お前、どうして……?」
「驚いてもらえてうれしいです。呼び出される前から先輩の黒い噂は耳にしていたので、何かあるかもと思ってボイスレコーダーの録音機能をオンにしていたんですよ。ところで――これも正々堂々のうちに入るってことで良いですか?」
俺はリキヤ先輩に詰め寄った。
「みんなから聞きましたけど……ずいぶんとこういうこと慣れているみたいですね」
リキヤ先輩への他の部員の反応から、俺は彼に何かしらの問題があると見当をつけた。
聞いてみると、俺に対して暴行を振るう前から何度も同じようなことをしていたらしい。
「下級生をおどして退部させたりとか、自分より実力のある他校のペアを怪我させて試合に出れないようにしたりだとか……大した心がけですね、先輩?」
俺は笑顔の裏に渾身の皮肉を込めてリキヤ先輩に言った。
「みんな、今タカシが言ったことは本当なのか?」
俺の話を聞いた顧問の先生が、みんなに視線を送る。
それに対して部員たちは控えめながらも頷きを返した。
「そうか。これは一度、しっかりとした事実確認をさせてもらう必要があるな」
先生はそう言ってリキヤ先輩をにらみつけた。
「ち、違うんです、これは全部、タカシの作り話で――」
リキヤ先輩が慌てふためいた様子で言い訳をしようとすると、
「リキヤ、いい加減にしろ!!」
少し離れた場所から見ていたリキヤ先輩のお父さんが大声を上げた。
「何か妙な雰囲気だと思っていたが、まさかお前がそんなことをしていたとは……」
「と、父さん! 違うんだ、これは」
「皆さん、ウチの愚息が申し訳ありません」
息子の話に耳を貸すことなく、リキヤ先輩のお父さんはその場で俺たちや同席している保護者に向かって土下座した。
「と、父さん! なんてことを」
「突っ立ってないでおまえも謝罪しろ! ちゃんと地面に頭を擦りつけるようにして」
「くっ……そお」
父親からぎろりと厳しい目を向けられたリキヤ先輩は、大粒の涙をこぼしながら俺たちに土下座した。
校内予選が終わり、俺たち大会出場組は懸命に練習に励んだ。
俺たちは互いに好影響を与えながらインターハイ予選までの日々を過ごし、非常にいいコンディションで過ごすことが出来た。
ただ、右腕は本調子には戻らず、俺はインターハイ予選でも左腕でラケットを振ることになった。
部活としては団体戦で優勝し、全国大会出場の切符を得ることができた。
個人戦では優勝、準優勝、そして俺とサトウ先輩のペアが5位と、ベスト8にウチから3ペアが入賞する結果となった。
目標としていた個人戦優勝には届かなかったが、全国大会出場圏内の6位までに入賞したため、個人ダブルスで全国大会への切符を手にすることができた。
リキヤ先輩はというと、学校側による調査の結果、これまでのあらゆる悪事が明らかにされたとともに、退学することが決定した。
会うことのなくなった今となってはうわさでしか彼の様子を知ることはできないが、何でも厳しい父親の監視のもと、性根を鍛え直されている途中らしい。
どうか彼が改心して、今後は汚くないやり方で何事かを成していくような大人に成長することを陰ながら祈っている。
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